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甲府地方裁判所 昭和32年(行モ)1号 決定

申請人 島田正規

被申請人 竜王町長

主文

本件申請を却下する。

理由

申請人は「本案判決確定に至るまで被申請人が昭和三十二年五月三十一日になした中巨摩郡竜王町町議会の解散処分の効力を停止する」との決定を求め、その理由の要旨として、

(一)  申請人は昭和三十年五月一日中巨摩郡竜王村村議会議員に就任し、同三十一年九月三十日隣村合併により竜王町として発足以来、右町議会議員として議会運営に当つてきたものであるが被申請人は昭和三十二年五月三十一日突如右町議会の解散を宣言し、同年六月二日その旨申請人に通知してきた。しかしながら右解散処分は地方自治法第百七十七条第四項又は同法第百七十八条第一項のいづれにも該当せず、被申請人がその職権を濫用してなしたものであつて明に違法である。

(二)  よつて申請人は被申請人を被告として右町議会解散処分無効確認の訴(昭和三十二年(行)第一一号)を提起したが、現在申請人は右町議会議長にして議会には多数の緊迫した重要議題が存在し、本案判決確定に至るまでこれを放置すれば、町政に混乱を生ずるのは必須であり、又右解散処分を前提として既に選挙管理委員会において選挙の準備中であるから、後日右選挙の違法を惹起することも亦当然にして、かくては町政一般に償うことのできない損害を蒙ることとなるので、右解散処分の効力の停止を求めるため本件申請に及んだというのである。

よつて考えてみるに、行政処分の無効確認を本案訴訟としてその処分の効力又は執行の停止を求める場合においても行政事件訴訟特例法第十条第二項の適用があり、従つて該処分の執行に因り申請人本人において個人的な損害を生じその損害が経済的に回復することが困難であつてしかもその損害を避けるため緊急の必要があると認められる場合に限り右処分の執行を停止することができるものと解すべきところ、申請人にかかる事情の存することについてはその主張及び疏明が全くない。しかのみならず本件申請の理由はもつぱら本件処分により町議会が解散すれば町政一般に償うことのできない損害を蒙るというのであるが、右町民の蒙る損害は申請人個人の蒙る損害とは異り、このような申請人以外の第三者が蒙る損害を参酌することはできないし、又申請人が町議会議員の資格を喪失することにより後任議員は選任され且つ右選挙の効力が争はれる可能性があるとしても、これだけをもつて直に解散処分により申請人に償うことのできない個人的損害を生じ且つこれを避けるため右処分の執行を停止すべき緊急の必要がある場合に該当するものということはできない。

従つて本件申請はその理由がないものと認め主文のとおり決定する。

(裁判官 杉山孝 野口仲治 土田勇)

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